ほとんどの紙幣(しへい)には、お札の種類を区別するためや、国民に親しみをもってもらうため、また、偽造(ぎぞう)防止のためにも肖像(しょうぞう)を使うことが多く見られます。
人物の肖像は、世界中で19世紀頃から使われるようになりましたが、最初は主に女神(めがみ)や守護神(しゅごしん)の全体像が描かれていました。やがて19世紀中頃から国王や女王、大統領(だいとうりょう)など政治家の肖像を使用するようになりました。第2次世界大戦後には、フランス、オランダ、イタリアなどの西欧(せいおう)諸国において、文化人の肖像が多く使われるようになり、その傾向(けいこう)は各国に広がっています。1980年以降は特に女性の肖像が増加しています。
日本の紙幣も最初は肖像がありませんでしたが、1881(明治14)年発行の「神功皇后(じんぐうこうごう)札」から本格的な肖像が使われるようになりました。戦前には、古代の人物が中心でしたが、戦後は明治期の政治家の肖像が多く使われました。1984(昭和59)年から発行されている現在の紙幣では、明治の文化人の肖像が使われています。
貨幣の場合には、西欧諸国では古代ギリシャ、ローマ時代から皇帝(こうてい)など政治家の肖像を刻印(こくいん)するのが一般的で、ほとんどの貨幣に肖像が使われました。中国では古代から肖像は使わず、文字や図柄(ずがら)が中心でした。日本も中国と同じで、原則として花、建物、動物などが使われてきました。
1990(平成2)年発行の国際花と緑の万国博覧会(ばんこくはくらんかい)記念5000円銀貨で、初めて女性の姿が刻印されました。
いわくらともみ
岩倉具視
1825(文政8)年~1883(明治16)年
江戸時代末期から明治初期の公卿出身の政治家。西郷隆盛や大久保利通らと明治政府を樹立しました。
日本銀行券500円券1951(昭和26)年
日本銀行券500円券1969(昭和44)年
ふくざわゆきち
福沢諭吉
1834(天保5)年~1901(明治34)年
大分県中津藩出身で明治中期の啓蒙思想家。欧米視察後、「学問のすすめ」や「西洋事情」などを著し、現在の慶応義塾大学を創設しました。
日本銀行券10000円券1984(昭和59)年
にとべいなぞう
新渡戸稲造
1862(文久2)年~1933(昭和8)年
盛岡藩出身で明治から昭和にかけて活躍した教育者。ドイツに留学し、帰国後諸大学教授を歴任。国際連盟事務次長を務め世界平和に貢献しました。
日本銀行券5000円券1984(昭和59)年
裏面山梨県本栖湖から眺めた富士山の姿
なつめそうせき
夏目漱石
1867(慶応3)年~1916(大正5)年
明治期の英文学者・小説家。英国留学後、教鞭を執る傍ら、『我が輩は猫である」や『三四郎』などを執筆し、日本を代表する作家として知られています。
日本銀行券1000円券1984(昭和59)年